「バド・パウエルって何がすごいの?」「名盤が多すぎて、どれから聴けばいいか分からない」「ブルーノートの『ジ・アメイジング』シリーズは何作あるの?」──モダンジャズ・ピアノの巨人は、入り口でつまずきやすい存在です。結論から言えば、バド・パウエルは右手の高速フレーズと左手の簡潔な和音で「モダンジャズ・ピアノ」の文法そのものを作った原点の人であり、まずは親しみやすい代表作から聴きやすい順にたどるのが近道です。本記事では、彼がなぜ原点と呼ばれるのか、ピアノトリオの聴きどころ、聴きやすい順に並べた名盤10選、自宅での愉しみ方までを、麻布十番のジャズバーTOMIJAZが解説します。
バド・パウエル(1924〜1966)は、チャーリー・パーカーらが生んだビバップのスタイルをピアノへ移し替え、後進の多くのピアニストに影響を与えた革新者です。本記事はピアノトリオの聴きどころを押さえたうえで、代表作10枚を録音年順ではなく「聴きやすさ(親しみやすさ)」の順に並べ、『ザ・シーン・チェンジズ』のようなメロディアスな一枚から、「ウン・ポコ・ローコ」を収めた激しい一枚、そして晩年の枯れた一枚へと進みます。最後に、自宅で一杯を添えて愉しむコツまでを一気に押さえます。
バド・パウエル(本名アール・ルドルフ・パウエル)は1924年にニューヨーク・ハーレムで生まれ育ちました。音楽一家に育った彼は、十代でハーレムのクラブ「ミントンズ・プレイハウス」に出入りし、そこでセロニアス・モンクに才能を見いだされます。モンクは生涯の師であり友人となり、後に彼へ捧げる楽曲「イン・ウォークト・バド」を書きました。1945年に警官から暴行を受けたことなどをきっかけに心身の不調を抱えながらも、短い生涯で残した録音はピアニストたちの教科書となり続けています。
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1. バド・パウエルとは|モダンジャズ・ピアノを変えた革新者
まずは、なぜ彼が「原点」と呼ばれるのかを押さえておきましょう。バド・パウエルは、管楽器が主役だったビバップの語法をピアノで完全に表現し切った最初の一人です。ここを理解しておくと、10枚のどこを聴けばよいかが一気に見えてきます。
1-1. ビバップをピアノに持ち込んだ人
1940年代、チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーが切り開いたビバップは、速いテンポと複雑なコード進行を特徴とする革新的な音楽でした。パウエルは、パーカーのサックスのように歌う右手の単音フレーズをピアノで再現し、ビバップのスピードと緊張感をそのまま鍵盤に移し替えました。ビバップの共演者としての歩みをたどりたい方は、チャーリー・パーカーの名盤を紹介した記事もあわせてどうぞ。
1-2. 右手のラインと左手のコンピング
パウエルの演奏を特徴づけるのが、よどみなく疾走する右手の単音ラインと、必要最小限の音数で拍を刻む左手の和音(コンピング)の組み合わせです。それまでのジャズピアノは左手で低音を規則的に刻むストライド奏法が主流でしたが、パウエルは左手を簡潔にすることで右手の自由を最大化しました。この左右の役割分担こそが、以後のモダンジャズ・ピアノの標準になりました。
1-3. 後世のピアニストへの影響
パウエルが確立した語法は、ビル・エヴァンス、ハービー・ハンコック、チック・コリアまで、モダンジャズの多くのピアニストに受け継がれています。とりわけ師であるセロニアス・モンクとは対照的な個性で、両者を聴き比べるとモダンジャズ・ピアノの二つの方向性が見えてきます。モンクの世界に興味があれば、セロニアス・モンクの名盤をまとめた記事が入り口になります。
2. 名盤10選の聴き方|本記事の並び順と聴きどころ
名盤10選に入る前に、本記事の並べ方と、ピアノトリオで耳を澄ませたいポイントを整理します。ここを押さえておくと、同じ一枚でも聴こえてくるものがぐっと増えます。
2-1. 並び順は「聴きやすさ」順(録音年順ではありません)
本記事の10枚は、親しみやすさ(聴きやすさ)を基準に並べています。上から順に聴き進めると、メロディが明快で入りやすい一枚から、より深く個性の際立つ一枚へと無理なく移っていけます。各作品には録音年を添えていますが、並び順は録音年順ではありません。年代順にたどりたい場合は、各項目の録音年を手がかりに並べ替えてお聴きください。
2-2. ピアノトリオで聴きたい三つのポイント
パウエルの代表作の多くはピアノ・ベース・ドラムのトリオ編成です。次の点に耳を澄ませると、演奏の凄みがよく分かります。
右手のフレーズが途切れずどこまで歌い続けるか、左手がどれだけ少ない音で的確に支えているか、そしてベースとドラムがパウエルの疾走にどう反応しているか。この三つを意識するだけで、速いテンポの曲も「何を聴けばいいか」が明確になります。パウエルが「ジ・アメイジング・バド・パウエル」シリーズを残したレーベルについては、ブルーノートの名盤をまとめた記事で紹介しています。
3. バド・パウエルの名盤10選(聴きやすい順)
ここからが本題です。親しみやすい代表作から、より深く個性的な一枚へ。上から順に聴き進められるよう並べました。各項目に録音年・レーベル・聴きどころを記しています。
3-1. ザ・シーン・チェンジズ(The Scene Changes)
1958年録音、ブルーノート。「ジ・アメイジング・バド・パウエル」シリーズ全5作の最終作(Vol.5)で、ポール・チェンバース(ベース)、アート・テイラー(ドラム)とのトリオ作です。1曲目を飾る「クレオパトラの夢」は口ずさめる名旋律として知られ、全曲がパウエルのオリジナルで構成されています。明快なメロディが多く、最初の一枚として最もおすすめできる入門盤です。
3-2. ジャズ・ジャイアント(Jazz Giant)
1949〜1950年録音、ノーグラン(現ヴァーヴ)。レイ・ブラウンやカーリー・ラッセル(ベース)、マックス・ローチ(ドラム)と組んだ初期トリオの演奏を集めた一枚です。スタンダード曲とオリジナルがバランスよく並び、全盛期の切れ味と歌心を明るい音で楽しめます。「Tempus Fugue-It」などパウエルの代表的な自作曲も聴けます。
3-3. バド・パウエル・イン・パリ(Bud Powell in Paris)
1963年2月録音、リプリーズ。晩年に拠点としたパリで、デューク・エリントンのプロデュースのもと、ジルベール・ロヴェール(ベース)、カンザス・フィールズ(ドラム)と残したトリオ作です。「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」「ディア・オールド・ストックホルム」など耳なじみのよいスタンダードが中心で、肩の力の抜けた語り口が魅力。初期の激しさとは違う、円熟した穏やかなパウエルに出会えます。なお国内盤CDは現在、中古での入手が中心です。
3-4. ピアノ・インタープリテーションズ・バイ・バド・パウエル(Piano Interpretations by Bud Powell)
1955年録音、ノーグラン(現ヴァーヴ)。ジョージ・デュヴィヴィエ(ベース)、アート・テイラー(ドラム)とのトリオで、「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」などの有名スタンダードをパウエルが自分の語法で解釈し直した作品です。元の旋律を知っている曲が多いぶん、パウエルがどこをどう崩し、どう歌わせているかが分かりやすく、「アレンジの妙」を味わう入り口になります。国内盤CDは現在、中古での入手が中心です。
3-5. バド!/ジ・アメイジング・バド・パウエル Vol.3(Bud!)
1957年録音、ブルーノート。ポール・チェンバース(ベース)、アート・テイラー(ドラム)を軸に、3曲でトロンボーンのカーティス・フラーが加わります。トリオの親密さに管楽器の彩りが加わり、ハードバップの熱気を帯びた一枚。ここから少しずつ、パウエルの演奏の密度が上がっていきます。
3-6. タイム・ウェイツ/ジ・アメイジング・バド・パウエル Vol.4(Time Waits)
1958年録音、ブルーノート。サム・ジョーンズ(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)とのトリオで、収録曲はパウエルのオリジナルが中心です。表題曲「タイム・ウェイツ」をはじめ、内省的で起伏に富んだ演奏が並び、作曲家としての一面がよく表れています。聴き込むほど発見のある、少し腰を据えて向き合いたい一枚です。
3-7. ザ・ジニアス・オブ・バド・パウエル(The Genius of Bud Powell)
1950〜1951年録音、クレフ(現ヴァーヴ)。1950年のトリオ(レイ・ブラウン、バディ・リッチ)と1951年の無伴奏ソロを収めた、タイトル通り「天才」の技巧を凝縮した一枚です。無伴奏のソロでは、左手と右手だけでオーケストラのように厚みを生み出す独奏の凄みが堪能できます。テンポの速い曲での一音一音の粒立ちに耳を澄ませてみてください。
3-8. ジ・アメイジング・バド・パウエル Vol.2
1953年録音、ブルーノート。ジョージ・デュヴィヴィエ(ベース)、アート・テイラー(ドラム)とのトリオを中心に、長い入院生活から戻って間もない時期の張りつめた空気が刻まれています。場面がめまぐるしく移り変わる組曲風の自作曲「グラス・エンクロージャー」は、彼の内面に最も近づける一曲。ここから先は、聴き手を選ぶ深さへと入っていきます。
3-9. ジ・アメイジング・バド・パウエル Vol.1
1949年と1951年のセッションを収めたブルーノートの記念碑的名盤。1949年のセッションではファッツ・ナヴァロ(トランペット)とソニー・ロリンズ(テナー)を迎え、1951年のトリオではカーリー・ラッセル(ベース)、マックス・ローチ(ドラム)と演奏しています。狂気すれすれの緊張を孕んだ「ウン・ポコ・ローコ」は、モダンジャズの到達点の一つ。最も有名で、最も激しいパウエルがここにあります。
3-10. ポートレイト・オブ・セロニアス(A Portrait of Thelonious)
1961年録音(1965年発表)、コロムビア。キャノンボール・アダレイのプロデュースで、パリでピエール・ミシュロ(ベース)、ケニー・クラーク(ドラム)と、師セロニアス・モンクの曲4曲を軸に録音した晩年の作品です。全盛期の爆発的な速さは影をひそめ、一音の重みと余白で聴かせる枯れた境地に達しています。10枚を聴き進めた最後に、最も通好みのパウエルとして味わいたい一枚です。
4. 自宅でバド・パウエルを愉しむために|音源と一杯の合わせ方
最後に、名盤を自宅でより深く愉しむためのちょっとした工夫を紹介します。聴く環境と、添える一杯を少し整えるだけで、半世紀以上前の録音が驚くほど生き生きと響きます。
4-1. モノラル録音を活かす聴き方
パウエルの代表作の多くは1950年代のモノラル録音です。左右に音が広がらないぶん、ピアノの輪郭がくっきりと真ん中に立ち上がります。音量を上げすぎず、スピーカーやヘッドホンで中音域をしっかり出すと、右手のフレーズの粒立ちと左手の和音のバランスがよく聴き取れます。半世紀以上前の録音でも、聴き方を少し変えるだけでピアノの表情が驚くほど鮮明になります。
4-2. 一杯を添えて、余韻ごと味わう
疾走する演奏には香りの立つウイスキーを、晩年の枯れた演奏にはグラスの中で香りがゆっくり開いていくブランデーを。グラスを傾けながら聴くと、速いパッセージの緊張も、バラードの余白も、ぐっと身近に感じられます。麻布十番のTOMIJAZでは、こうした一杯をジャズの流れる空間でお愉しみいただけます。次章でご案内します。
麻布十番のジャズバー TOMIJAZ では、ジャズが流れる静かな空間で一杯をお愉しみいただけます。バド・パウエルのような疾走するピアノの余韻には、グラスでもお選びいただける山崎・白州・響 ジャパニーズハーモニーといったジャパニーズウイスキーや、マッカラン12年・グレンフィディック12年などのシングルモルトをストレートで。晩年のパリ録音のような枯れた演奏には、グラスでお出しできるレミーマルタン VSOP・ヘネシー VSOPのブランデーを。ストレートには無料のお水を添えています。なお当店では不定期でライブ演奏も行っています。開催日・出演者・ミュージックチャージはトップページのライブ情報をご覧ください。
| 所在地 | 〒106-0045 東京都港区麻布十番2-8-3 ディケンズ麻布 3F |
|---|---|
| 営業時間 | 月〜水 19:00〜24:00(L.O. 23:30)/木・金 19:00〜翌2:00(L.O. 翌1:30)/土 19:00〜23:30(L.O. 23:00) |
| 定休日 | 日曜・祝祭日 ※土曜は不定休 |
| アクセス | 東京メトロ南北線「麻布十番駅」4番出口/都営大江戸線「麻布十番駅」7番出口より徒歩3分 |
| 電話予約 | 03-3454-5566 ※営業時間内のみ |
| ウェブ予約 | 食べログ予約ページ |
まとめ
バド・パウエルは、ビバップの語法をピアノに移し替え、右手の疾走するラインと左手の簡潔な和音という「モダンジャズ・ピアノ」の文法を作り上げた原点の人です。本記事では代表作10枚を聴きやすさの順に並べ、まずはメロディが明快な『ザ・シーン・チェンジズ』から入り、『ジャズ・ジャイアント』や『バド・パウエル・イン・パリ』で歌心を味わい、『タイム・ウェイツ』や『ザ・ジニアス・オブ・バド・パウエル』で作曲・独奏の凄みに触れ、最後に「ウン・ポコ・ローコ」を収めた『ジ・アメイジング・バド・パウエル Vol.1』や晩年の『ポートレイト・オブ・セロニアス』で深みへと進む流れをご提案しました。聴く環境と一杯を少し整えれば、半世紀を超えた録音が今も鮮やかに響きます。麻布十番のジャズバーTOMIJAZでも、ジャズの流れる空間で一杯とともにその余韻をお愉しみいただけます。
よくある質問(FAQ)
- バド・パウエルはなぜ「モダンジャズ・ピアノの原点」と呼ばれるのですか?
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チャーリー・パーカーらが生んだビバップの速く複雑な語法を、右手の単音ラインと左手の簡潔な和音でピアノに完全に移し替えたのが彼だからです。この左右の役割分担が以後のジャズピアノの標準となり、ビル・エヴァンスからハービー・ハンコックまで多くのピアニストが受け継いでいます。
- どのアルバムから聴き始めるのがおすすめですか?
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メロディが明快な『ザ・シーン・チェンジズ』が最初の一枚に最適です。1曲目の「クレオパトラの夢」をはじめ口ずさめる旋律が多く、本記事の並び順でも先頭に置いています。そこから下へ順に聴き進めると、無理なく深い作品へ入っていけます。
- 「ジ・アメイジング・バド・パウエル」シリーズは何作ありますか?
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ブルーノートの「ジ・アメイジング・バド・パウエル」はVol.1からVol.5までの全5作です。最終作のVol.5が、本記事で最初に紹介した『ザ・シーン・チェンジズ』にあたります。
- 並び順は録音年の順番ですか?
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いいえ。本記事は録音年順ではなく「聴きやすさ(親しみやすさ)」の順に並べています。各項目に録音年を添えているので、年代順にたどりたい場合はそれを手がかりに並べ替えてお聴きください。
- ピアノトリオのどこを聴けばよいですか?
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右手のフレーズが途切れずどこまで歌い続けるか、左手がどれだけ少ない音で的確に支えているか、ベースとドラムがパウエルの疾走にどう反応しているか。この三点に耳を澄ませると、速いテンポの演奏でも聴きどころがはっきりします。
- セロニアス・モンクとはどんな関係でしたか?
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十代のパウエルの才能を見いだしたのが、生涯の師であり友人となったセロニアス・モンクでした。モンクは彼に捧げる曲「イン・ウォークト・バド」を書いています。対照的な個性の二人を聴き比べると、モダンジャズ・ピアノの幅広さが見えてきます。
- 自宅でジャズピアノを愉しむコツはありますか?
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1950年代のモノラル録音が多いので、音量を上げすぎず中音域をしっかり出すと、ピアノの輪郭がくっきり立ち上がります。香りの立つウイスキーなど一杯を添えると、演奏の緊張も余白も身近に感じられます。
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TOMIJAZ Bartenders(トミジャズ・バーテンダーズ)
麻布十番のジャズバーTOMIJAZの現役バーテンダーチーム。創業者・トミがニューヨーク20年・東京14年にわたり築いたジャズバーの歴史を、常連客からオーナーとなった株式会社Envalue代表の水野泰和が2022年11月より受け継いでいます。お酒・ジャズ・空間づくりに関する一次情報を、現場のカウンターから発信しています。





